色白の顔に鋭い目付き。位の高い女子よりも美しく流れるような黒髪は、頭のてっぺんで一つに結われている。バランスのとれた肉付きの体と、整った顔立ち。 町を歩けば老若男女、皆が振り返る美貌を持つその人が二人、目の前に立っている。 二度三度瞬きして、綾部は首を傾げた。隣のギンギン先輩は驚きのあまりか口をあんぐりあけて始終黙りっぱなしだ。 「立花先輩、どうしてそのようなことになったのですか?」 使えない先輩の代わりに問えば、代わる代わる答えていく。 「それが私にもわからないんだ。朝起きたらこうなっていた」 「文次郎は鍛練に行っていたからな、知らないのも無理ない」 「今のところ大した異常はないし、まあ暫くしたら元に戻るだろう。あの不運が関係してるやもしれんから、今から訊きに行くところだ」 「不便と言えば人に会う度何事かと尋ねられるのだが、慣れてしまえばそれもまたからかいがいのあるものだしな」 「鉢屋が顔をしかめて「誰かの変装ですか……?それにしても違和感はないみたいだけど」なんて言っていたのは愉快だったぞ」 「それで、なんと応えたんですか?」 「「双子だと言った」」 実に楽しそうに朗々と語る様は、やはりどう見たって我らが作法委員長その人だ。 今さら双子だと言われても信じることはできまい。 おかしな現象に遭っているというのに、それすらも楽しもうとしているところは流石としか言いようがない。 相変わらず目玉をぐるぐるさせている文次郎を尻目に、二人のうち一方の仙蔵に抱きつく。途端、ピクリと肩が揺れた。 「先輩が二人もいるんですから、一人くらい譲ってくださいよ」 「なっ……何を言っているんだ貴様はァ!!今すぐ離れろ」 「ふむ面白いな。いいぞ、付き合ってやる」 「仙蔵!?」 素っ頓狂な声に間抜けな顔。二人で視線を交換し、阿呆だなと小さく笑った。 もう一人の仙蔵が文次郎に近づき、思いっきり背中を叩く。小気味のいい音が鳴り、文次郎が眉を寄せた。 「そんな顔をするな!冗談だよ。例え二人になったって私はお前のものさ」 「そういうことを言っているわけではないんだが……もういい」 溜め息を吐いて、ようやく肩の力をぬいた文次郎に阿呆だなとまた笑みを口の端に乗せる。 綾部の手からするりと逃れた仙蔵も文次郎に歩みより、両側を陣取った。両手に花だなと意地の悪そうに笑うその顔は、自分のよく知る立花先輩のものだ。 「じゃあな、綾部。世話をかけた」 「ああ、そうだ。今日の委員会は中止だとみなに伝えておいてくれ」 最後に手を振って、遠ざかる背中が三つ。それに嘆息をついて、鍬を握る右手に力を入れた。 二人に増えてもダメだったか。小さな小さな呟きが空気に融けて消えてなくなる。 次は三人にしようっと。不穏な企みもまた、誰の耳にも届かなかった。 |